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東谷・立命館中高校長と瀧・同志社香里中高校長に聞く②
自律の力と学力の交点
毎日新聞社
同志社香里中学校・高校の瀧英次校長と立命館中学校・高校の東谷保裕校長は、いずれも生徒が自己実現を図ろうとする過程で協働性やリーダーシップを身につけていくと語った。こうして養う自律の力は、教科で身につける学力とどのように関係するのだろうか。【安部拓輝】
■なりたい自分に近づく手段
立命館中高では創立120年を記念して生徒に実現したいプロジェクトを募った。2次審査を経て採用されれば10万円を補助するチャレンジだ。中2の松井渚紗さんは、体重計の開発をはじめ健康管理サービスを提供するタニタに掛け合い、学食に「健康メニュー」を取り入れようと試みた。タニタとの打ち合わせやチラシの作成は生きた言語活動であり、収支の計算などには数学が生きている。高3の臼杵建士郎さんは、学校に導入された3Dプリンターで消波ブロックの模型を作り、海に浮かせて海岸の砂浜を守る方法の実用化に挑む。物理や情報の技能が実社会で生きることが分かる。卒業生の中には立命館と提携する米国の大学に1年留学し、「国際貢献できる仕事がしたい」と思った生徒は立命館大法学部から法科大学院に進み、2023年に外務省に入省した。2026年度に南米への派遣が決まっているという。東谷さんは「学力は、偏差値で勝負するためだけにあるのではない。なりたい自分に近づくため、やりたいことを実現するために必要だから学ぶのではないでしょうか」と問いかける。
■社会の中で生きる学力に
同志社香里中高の生徒は毎年約97%が同志社大や同志社女子大に進学するため、同校は、そもそも大学入試共通テストや二次試験のための学力に力点を置いていない。高3までは文理のクラス分けもせず選択制にしている。対外模試で得点する力よりも、体験に多くの時間を割いているからだ。
例えば、中学の脊椎(せきつい)動物の骨格を学ぶ単元ではイノシシの骨格標本をバラバラにして、生徒がその骨をくみ上げていく。その標本は教員が害獣駆除されたものを譲り受けて製作したものだ。眼の働きを学ぶ単元では、食肉加工場から購入したブタの眼球を各自が解体し、水晶体を取り出す。教科書にある図ではなく、実物を触って学ぶのだ。
国語の教員は古文の時間に自身が習っている琵琶を持ち込み、生徒に体験させながら平家物語を語る=写真。
理科の授業で解剖したハマグリの貝殻をもらいうけ、「貝合わせ」を作成して平安文化を体験する。教科書や模型に依存せず、本物を教材にしようとするのは「数年先の大学受験よりも10年20年先の社会を生き抜くための教養、『リベラル・アーツ』を身につけてほしい」(瀧校長)と考えるからだ。
■系列校の合格は「出発点」
系列校の生徒は勉強しないという印象がある。だが、近年は生徒の意識に変化が見られるという。「系列高や高校に入ったら遊んでいても大学に入れて就職できて、定年まで働けるという時代ではないことは生徒も保護者もよく分かっている」という瀧校長は、同志社香里に入るのはゴールではなくスタートラインだと捉えるようになっている」と話す。
同志社大学が開設している簿記3級の講座も受講可能にしており、今出川の校舎まで堺市の自宅から通う生徒もいる。大学1、2年生がデータサイエンスとAIを学ぶ全学共通講義も受講可能で、基準の成績を満たせば大学入学後の単位として認める制度も実施している。高大連携の一環でビッグデータの扱い方や統計分析を得意とする人材を高校年代から育てることでデータリテラシーの底上げを図る狙いもあるという。
来週からは高槻中高を事例として理数探究について考えます。