インタビュー
なぜいま中学受験か
【第1話】中高一貫の特徴
毎日新聞社
日本の教育は転換期にある。急速に少子化が進む中で国は高校の授業料の実質無償化を進め、それが私学にも拡大される。大学入試改革が多様化し、高校までの教育課程も変化する中で現在は中高一貫の私学が関西でも多数を占めるようになった。そこで関心が高まるのが中学入試。高3まで6年間の学びの特徴や小学生から受験に挑む意義について、浜学園の松本茂学園長と日能研関西の森永直樹取締役(以下、敬称略)に聞いた。【安部拓輝】
■高校の教育課程を中3から
中学受験は子どもたちに何をもたらすのでしょうか。
- 松本
中高一貫教育を発達の観点で見てみましょう。例えば、理系は男性が強くて女性は弱いというような都市伝説的な発想がありますが、これは間違いです。共働きも増えて男女を問わずに社会の最前線で活躍できるようになっているのに、その発想はもう古い。学力が伸びる時期に男女の差があるんだということを知ってほしいですね。
一般的に男子は中3から高1ぐらいに急激に発達します。中学時代に自分を大人に作り変えていく中で自分の特徴を見つめて将来を考えられる時期にきたところに高校に合格するための勉強をしなくてはいけなくなります。だけど、中高6年間の教育課程であれば高校をゴールとして模試で結果を求め続けるのではなくて、中3の時期から大学受験を見据えて高校の教育課程に入っていけます。
中学受験では、もしかして自分の能力を最大限に発揮できずに第1志望の学校に行けないかもしれませんが、ちゃんと学校選びをしておくとすごく伸びてきます。一方の女子は発達が早いので小学校高学年から学力も伸びます。そこからも着実に伸びていきますが、伸びは緩やかになります。中3、高1ぐらいになると男子の成績が急に上がり高校入試で順位がつけられたりすると、それを見て「自分は理系は弱い」と思い込んでしまいがちです。目先の結果に惑わされず6年間を見越してコツコツとブレずに努力していけば、理系の進路は自然と開けていけます。
■高校入試期に短期留学も
- 森永
私は、中学受験の最大の目的は、学校が選べることにあると思います。試験で選抜される課題はありますが、それをクリアすれば我が子を通わせたい環境を手に入れることができます。松本さんと少し重なりますが、中3と高1の生活が高校受験のある学校生活と比べて全く違う2年間になります。例えば、最近の私学では中3の年明けくらいから数カ月の短期留学を組み込んでいる学校が多いです。高校入試で失敗しないように内申点を上げるために頑張って生活するのではなく、その時期に海外で刺激を受けて帰ってくる。これは一番極端な例ですが、多感な時期に自分の世界を広げる時間と機会が得られるのは大きな違いです。
小学生のうちから受験を経験させるのにためらいを感じる保護者もいるのではないでしょうか。
- 松本
子どもにとっては初めは勉強も習い事の一つです。サッカークラブに入って興味持ったらのめり込むのと一緒で勉強の機会を与えて、面白そうな学校が見つかってそこに行きたいと思ったら、のめり込めばいい。大事なのは、学校選びをすることです。偏差値だけで価値づけするのは良くない。入学後の6年間の過ごし方が全く違ってしまいますから。仮に第2志望の学校に入ったとしたら学力的には上位にいるはずなのに、親が「何でこんなところになったんだ」という空気を出してしまったら、子どもはその学校の全てを否定し始めてしまいます。入学式を笑顔で迎えて「ここで頑張ろう」と思える中学入試をしてほしいです。「いま自分に合っている学校はここだ。ここでしっかり頑張ろう」とマインドセットできていれば、明日への一歩をポジティブに踏み出せます。学校の先生の言うこともどんどん吸収していけます。その積み重ねで6年間のうちに想像もしない成長を遂げていきます。
- 森永
男の子ってね、幼稚なんですよ。国語の物語文の読解などは特に苦手です。登場人物の心情など体験してないことを理解するのは本当に難しいです。だけど、そこで積み重ねておくと後伸びして、中2くらいになってできるようになってくる。それは小学校の時にやったからですよ。小学校から積み上げた努力が開化する時がくるんです。苦手分野が得意分野に変わると大きな強みになります。
■自分を見つめる第一歩
- 松本
最近は入試の結果を受験生に返してくれる私立中学校が結構あります。ある子が入試の後に私のところに来てくれた時、実は第1志望への合格点に1点足りなかったと打ち明けてくれました。それは何かというと、国語の漢字。最初に書いた漢字で合っていたのに、書き直してしまった。もしもそのままにしていたら結果は違ったかもしれないという話でした。
どちらかというとやんちゃな方で勉強はあまりしなかった子なので、私にははじめ言い訳めいて聞こえたのですが、それは間違っていました。「僕はお父さんやお母さんや先生たちに漢字の練習しろっていくら言われてもしなかった。だから、しなかった自分に自信が持てなかった。やってない自分が信用できなかったんです」。彼はそう語りました。意表をつかれましたが、中学入試の経験は、自分を見つめる第一歩なんだと改めて気付かされました。彼がそのように振り返ることができたのは、保護者の方がちゃんと努力を認めてくれていたからだろうと思います。
- 森永
保護者の皆さんにはいつも、その子の成長が中学受験の証しですよという話をします。ここで得た経験が子どもの成長につながっています。どこの学校に行くことになったとしても、成長した姿を見ることが親の楽しみであってほしい。喜ぶ姿を見たら、子どもは迷いません。中学受験が、自分と向き合って成長する過程を分かち合う時間であってほしいと思います。
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松本茂
奈良県出身。進学教室「浜学園」学園長。浜学園で26年間にわたって社会科の講師を務め、2022年4月に学園長に就任。関西を中心に首都圏や東海圏でも授業や受験指導を担当している。
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森永直樹
日能研の教室統括部長などを経て2017年に取締役営業本部長に就任。中学受験イベントで私学教育の魅力を伝える講演などに取り組んでいる。
2025年12月10日現在
次回は12月17日に公開。拡充される探究的な学習の環境を私学がどのようにして創り出しているのか考えます。