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学びのフロンティア

好きなこと見つける土曜日に
立命館中高の授業改革

毎日新聞社

 京都府長岡京市の立命館中学校・高等学校は2022年度に土曜日の授業をやめた。その代わりに始めた取り組みが、同校を志願する子どもたちの心をつかんでいるという。名付けて「サタデーボックス」。2026年1月末の土曜日に学校を訪ね、活動の様子を取材した。【安部拓輝】

教師も一緒に探究

 10人ほどの生徒たちが手のひらに茶色の球体を載せ、黙々と磨いている。泥団子だ。砂やワラを混ぜた泥を少しずつ肉付けして固め、塩化ビニール製のL字パイプで球体に成形する。カリカリカリ……。心地よい音が響く。「そろそろ強めに磨いてもいいんちゃうか?」。講座を担当する小林誠教諭(情報)は、初参加の生徒の手元をのぞき込んで助言した。「この工程が泥団子の命やからな」。

夢中で泥団子を磨く生徒たち

 これは「サタデーボックス」の講座の一つ、「泥団子研究所」の風景だ。納得のいく泥の球体が仕上がったら、好きな色を混ぜたしっくいで固める。その工程は、土壁をつくる伝統工法と同じだ。実際、生徒のそばでは地元の左官職人、三谷涼さんがサポートしている。粘土と砂とワラの調合からはじめ、最後のしっくいは大阪城などで使われているのと同じ。「泥団子は丸い壁だ」という三谷さんは「生徒や先生が試行錯誤している夢中になれる時間は私にとってこれ以上ないぜいたくです。泥遊びは左官の原点だから」と語った。

色を混ぜたしっくいで仕上げた泥団子=三谷さん提供

 「サタデーボックス」という名前には、教員と生徒が好きなことを一緒に見つけてためていく宝箱という意味を込めている。年に4回、地域の人たちにも声をかけて一緒に学び合える場を創る。連続講座もあれば、1回完結型もある。今年度は延べ144講座が催された。鍋の準備をしてスッポンを解剖した山本圭太教諭(生物)は「なかなか解体が難しいな」と言いながら生徒たちと悪戦苦闘。福田成穂教諭(理科)はミニ四駆を思う存分に走らせることができるコースを準備した。

改造したミニ四駆を走らせる生徒たち=同校提供

 愛犬のレトリバー2頭を連れてきた森田祥子教諭(外国語)は、世話になっているドッグトレーナーを招いて犬のしつけ方講座を企画した。「大型犬を触りたい人、飼ってみたい人集まれ!」と呼びかけたところ、10人を超える生徒が参加した。代わるがわるなでてもらい遊んでもらって2頭もうれしそう。肥田高歩教諭(家庭)も生後半年の柴犬を連れてきてトレーナーに質問していた。

勉強と部活以外の視野を

 学習指導要領の「総合的な探究の時間」が本格始動したのは2022年。立命館中の白井有紀副校長は「生徒に『何か課題を設定して調べて発表しなさい』と指導するのは何か違うと思っていました」。同校ではその前年からカリキュラム改革の一環で土曜授業の見直しを始め、教科の授業は平日に振り分けた。では、土曜はどうする? 部活動の顧問からは「部活をやらせてくれたらいいではないか」という意見も寄せられたが、それでは勉強と部活以外に視野が広がりにくい。「好きなことを見つける『種まきの時間』にできないか」と議論が交わされた。
 そんな中で「教員もわくわくする講座をやりませんか」と提案したのが小林教諭だった。きっかけは、自宅で幼い息子に「泥団子をつくりたい」と言われたことにある。小林教諭は至極の泥団子を求めて三谷さんが開く泥団子教室に参加した。「うちの子はすぐにあきましたが、私がはまりました」。ワラや砂の量を少し変えて練るだけで土の粘り気が大きく変わる。次々と浮かぶ疑問を探究する先で一つの作品を生み出す面白さを生徒たちにも伝えたいと思った小林教諭は、三谷さんに土曜講座への協力を求めた。
 講座では小林教諭の「後継者」の手が上がる。中1の角野柚衣さんは既に4回目。丸くなめらかな球体が手の中で育っていくのがたまらないという角野さんは「私、ここの副所長になります」。中1の小島彩里(あかり)さんも常連だ。小学生の時、泥団子講座の話を学校説明会で聞いて立命館中の受験を決めたという。「志望動機の一部ですけど、これが決定的でした」と話す小島さんは泥団子を四方八方からうっとりと眺めた。

生徒が企画する講座も増加中

 好きなことを共感するのに年齢は関係ない。4年目を迎えたサタデーボックスでは生徒が企画する講座も増えている。例えば、ダンスグループとして活動している高1の生徒5人は小学校に出張指導に出向いている。レーザーカッターを使ってアクリルキーホルダーを作ったり、布に印刷できるプリンターでオリジナルTシャツやトートバッグを作ったりする講座は、機材の扱いが得意な生徒チームが訪れた親子を援助する。中2の奥井怜慈さんは、東京大の数学の二次試験で出題された問題の解き方を議論する講座を企画した。高3までの履修範囲を独学した奥井さんは、参加した半井愛子さん(高2)や原澤研二教諭(数学)に自分の解法をホワイトボードに書いていった。半井さんは「なるほど。そんなアプローチがあるのか」と目を輝かせる。原澤教諭は「今度は奥井君をうならせる問題を探してこよう」と意気込んでいた。

3Dプリンターの扱い方は生徒たちが覚え、参加した親子に教える=同校提供

授業の壁を越えていく

 他校からも視察が増え、「どうやったら実現できるのか」という質問が寄せられる。そんな時、白井副校長はにこやかに答える。

 「探究学習させなければならない」と義務的に考えるのではなく、授業の枠を取っ払って、私たちが面白いと思うことをやることが大事ではないでしょうか。

 教員は真面目だから「学校教育かくあるべき」という型にはまろうとするが、それではうまくはいかないと白井副校長は話す。生徒に教えなくていい。評価の必要もない。教師に求められているのは、そこじゃない。「授業の型を取り払った時に、私たちに何が残るか。そこが問われているのではないでしょうか」
 まずは、教師の自己変革が必要なのだ。「授業の壁を越えて、先生がしたいことを探す姿を生徒に見せてみませんか?」。白井副校長は、そう問いかけている。

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